撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

いくつもの顔(芋たこなんきん)

 健次郎が倒れた。肺に腫瘍ができている・・と。


 病院に親しい人たちがやってくる。健次郎のことを、町子の
ことを、いろんな人が心配している。


 ほの暗い廊下・・空になった鳥かご、気を取り直す町子・・
明るい光の中の花、白すぎる病室・・・。


 さりげない笑顔、心落ち着ける微笑み、気丈なまなざし、
ふと見せる不安と疲れの色・・。健次郎を取り巻く人々に、
そして健次郎自身にも・・。


 これから訪れる嵐の予感をいっそう感じさせるほどに、静かな
ひとびと・・。しかしながら、それは息をひそめて怖れているの
ではない。大事なひとのために、なにが出来るのか、自分がどう
あるべきなのか、糸をはりつめたように、水をはった器を掲げ持つ
ように、緊張とともに、心を澄ませて凝視しているようだ。


 何が起こったとしても、きちんと向き合うのだろう・・それは
なにより、愛する人との大事な関係を、変わらず大事にしたいから
・・・そう思えた。


 年をとったなあ・・と思えたお母さんが、純子さん、町子に
ついていってあげて・・わたしはひとりで大丈夫だから・・と
いったのが、とてもとても・・・。冷静に、自分が親として町子に
何をしてやれるのか・・そんな静かな親心が感じられた。