撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

予感

 昨日は中学生、次男の所属するラグビークラブチームの新人戦、第
一戦。まだまだ我が子はでないのだけれど、ずっと一緒にやってきた
チームメイトの何名かは2年生に混じってグラウンドに立つ。すごく
楽しみ。


 いつも笑顔の素敵なYくんに「頑張ってね」と、声をかけると、珍しく
「はい」のあとに言葉が続く。「プレッシャーが・・・」。ほんとだ。
お母さんの言ってたとおり!私にまでそんなことを漏らすとはホントに
緊張してるんだろう。「いつも頑張ってるじゃない、そのままでいいよ
昨日ジャージもらったあとのプレイ、とってもかっこよかったよ」って
送り出した。


 時折、エキセントリックなことをいう芸術家肌のAくんは、一緒に
歩きながらさりげなく「Mがジャージもらわなかったのは意外だった」
と、声をかけてきた。そうだよね、お母さんたちのあいだでも軽く
話題になっていた。でも、そういうこともあるんだよ・・って今の
私は知っている。昔のわたしだったら???でいっぱいになってた
だろうけれど・・・。「そうだよね、Mは意外だよね。でも、1年生
だから・・2年生に混じって試合に出るにはからだもこころも十分に
乗ってないとかえって危ないからね、Mの本調子ってあんなもんじゃない
もんね。それにさ、まだ試合あるから、コーチたちの作戦もあるんじゃ
ない?」なんて話しながら歩く。



 まもなく試合が始まる。うわさのMちゃんもやってくる。「あんたが
うちらのキャプテンで、1年のなかで一番なことはみーんなわかってる
から!」と、言おうとしたけど、そんなこという必要もあるのかないの
か、それよりなんだか鼻の奥がつーんとなりそうで言葉にならずに
彼の背中を押しながら、「さあ、応援がんばろ!みんなでチームなん
だからね!」と、試合を観に向かう。


 試合は相手に圧倒されながら進む。それでも、果敢なタックルで
相手の行く手を阻んではいる。もうひとつ、もうひとつ何か突破口が
あればきっといい方向に流れるのに、そのもうちょっとに手が届かず
なんとももどかしい。決して悪いゲームではない。まわりの父兄たちの
声を聞くことさえなぜだかたまらなくなって、ひとり離れて両手を組み
祈りながら応援の声を上げていた。きっと勝つ。いつかこの子たちは
きっと勝つのだ・・と信じて。


 届かずに終わった。何回かあったチャンスもトライには至らなかっ
た。戦いは始まったばかり、ひとつ終わっただけ。そう自分に言い
聞かせながら、なぜかぐったりと疲れている自分に気づく。どうして
こんなに自分の念を込めようとするのだろう。去年の今頃はもっと
ドライに観ていたような気がする。


 試合が終わってバスに向かって荷物を運び込む子どもたち。一番最後
に残ったクーラーを、これまたひとり残っていたキャプテンがひとり
運んでいる。まったくもう!あんたが一番いつも頑張ってるよねえと
Mちゃんに声をかけながら一緒に運ぶ。いつの間にか笑顔が戻っている。
鋭いタックルをする彼だが、普段は優しげで控えめなシャイな中学生
なのだ。もうあと数メートルしかバスまで残ってないくらいになって
まったく遅ればせながら(笑)我が子がフォローに走ってきた。それも
片手におにぎり持って・・(笑)。それでもまあ、チームメイトですし
息子にMちゃんの相手役を譲って笑いながら歩く二人の後ろ姿を見ながら
バスに乗り込む。我が子が出てきたことにちょっと安心する。


 一日経つ。携帯でいちはやくクラブの掲示板の記事を読む。一年生の
子の名前を挙げてくれているのを見つける。
・・・気持ちの入ったタックル
・・・いつもチャレンジャー
 そんな言葉を見て、急に胸が熱くなる。昨日からどこかで抑えたまま
止まっていた時が流れ始めるように、不意に涙が溢れてくる。悔しい!
と、声を上げて泣きたいような・・その一方で、そうなんだ、それでい
いんだ・・と、なぜか心が澄むような・・そんな不思議な感覚に襲われ
た。


 いま、予感している。


 これは始まりなのだ。我が子がいずれ体験する試合につながるこの
チームに関わっていくこと・・。長男のときとは全く違う体験を私も
することになるだろう。前よりいっそう、我が子のチームだと実感する
ことになるだろう。しかしながら、いずれ、親は親、ラグビーをするの
は子どもたち本人で、親は見守ることしか出来ないことを痛いほどに
感じさせられることになるのだろう。今のように応援の声を上げること
すらいつかできなくなるかもしれない。ただ祈ることしか出来なくなる
かもしれない。


 しかし予感している。きっといいチームになっていってくれる。
どうしてそんなことが言えるのかはわからないが、穏やかな気持ちで
グラウンドに向かうと口元が自然と笑顔へと向かうのだ。そう、きっと
いいチームになるに違いない。そう信じることができる。それが今の
わたしの「予感」なのだ。