撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

沢田先生・・・(さくら)

 まだ元気の出ないさくら。何だかおかしくなっちゃった桂木先生。
そんな中で、さくらのお見舞いにいくひととして白羽の矢がたったの
は、あの沢田先生でした(笑)。


 気まずい雰囲気のなかで、何を話し始めるかと思ったら、小学校
時代からの自分の失恋話。内容はともかくとして・・だれにでも
あることです・・と何度も語る沢田先生の心はしーんと伝わって
くるようだった。


 大学の卒業間際に母を亡くしたわたしに、卒業式では先生方が
いろいろ気遣い、慰めの言葉を掛けてくださった。どれも暖かいもの
ではあったけれど、その中で一番印象に残ったのは、「親との別れは
どんな人にも二度訪れます」と静かにつぶやいてくださったもの
だった。年をとっていくにつれ、その言葉はいろんなひとから何度か
聞きはしたけれど、あの時は、どんな慰めよりも効く薬、不思議な
おまじないの言葉のように聞こえた。


 そして、悩む桂木に詰め寄る沢田。なにがあったにせよ、弱って
いる人を目の前にして手を差し伸べないなんて!教育者として、
言い換えれば男として、いや、人間として許せないことだろう!と。


 決心して、ロビーへのプレゼントだったシャツを着てさくらのもとへ
行く桂木。驚いて目を背けるさくらに、ロビーの写真も思い出の品も
みんなここへ出せ、しっかりと味わい尽くせ!そして忘れろ!と・・。


 桂木先生、以前、子供達に向かっても、「味わい尽くせ」という
言葉を使っていたなあ・・と思い出す。いいことも、悪いことも、
自分の身に起こったことを、正面から受けとめ、味わい尽くせ・・と。
良くも悪くも、そうしなければ、前に進むことは出来ないのだろう。


 忘れるために思い出す・・・そんなことも時には必要なんだ・・
乗り越えるためにぶちまける・・・そんなことも・・。そして泣き
叫ぶときに、受けとめてくれる胸があるということは、とても
幸せなことだと思うよ、さくらちゃん。おおっと、ここで間違えちゃ
いけないのは、泣くことが一番だからね。抱きとめてもらうことに
酔ってちゃ、おかしくなってしまうし・・。うう〜ん、そのあたり、
純粋に受けとめることができるかどうか、悩んでたりしたのかなあ
桂木先生・・・などと考えたりします・・。


 ともあれ・・人間は、自分はこの広い世界のなかのちっぽけな
ひとりなんだ・・という気持ちと、この自分が私を生きている、他の
なにものでもないかけがえのないものなのだという、矛盾するかに
みえる両極端をうちに抱えて、生きていくのだろうなあ・・などと。
だから淋しくなったり嬉しくなったり、一人になりたくなったり
だれかと愛を交わしていたくなったりするのだろうなあ・・などと
思ったりするのでした。