撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

呼びかける(芋たこなんきん)

 手術は成功したというものの、まだ意識が戻らず、目の離せない
健次郎の手を握りしめて呼びかける町子。


「ここにいてるから・・みんなここにいてるからね・・」


 家でみんなのことを、健次郎の無事を祈る町子の母、和代。仏壇に
向かって、どうぞ、守ってやって下さいと呼びかける。


 健次郎に付き添う町子に替わって一旦家にもどり心配りをする
ゆりこ。おばあちゃん、おじいちゃん、おかあさんに、心の中を
ぶつけるように、仏壇に向かって呼びかける。「寂しいからって
おとうちゃん連れていったらあかんよ・・・」


「大事なものをつかんだら、手はなさんとギューっと握っとくんやで」


 父の言葉が思い出される、父の思い出とともに・・。どうしてあの時は
もっと素直に父の手を離さずにずっとそばにいられなかったのか・・
どうしてあんなに好きだったことを素直に父に伝えられなかったのか。


 人を愛するときには、人を愛することを教えてくれた人のことを
思い出す。もっと伝えたかったことを後悔して、素直になれなかった
日々のことを思い出す。そしていつか、自分がもらった愛情の大きさに
きづいたときに、伝えられなかった愛情を伝えるためには、ただ
人を愛することしか出来ないと気づく。お父ちゃんに呼びかけられ
なかったその心をも胸に抱えながら、健次郎の手をしっかり握りしめ
呼びかける。もう、決して後悔したくない。健次郎を愛することが
今は無き父を愛することにつながっていく。


 情けはひとのためならず


 情け・・と愛情は、少し違うとは思うけれど、それでも、ひとを思う
心は、そこにとどまらず、巡り巡って、いつかやさしい空気を運んで
くれる・・・。淋しくても、淋しくても、愛を乞うのではなく、愛を
贈り続ければ、いつか暖かいもので満たされるに違いない・・・。


 「芋たこなんきん」をみていると、小さな頃のことを次々と思い出す。
私が「情けは人のためならず」という言葉を覚えたのは何故かお風呂の
中。祖母と一緒に、ちょっぴりぬるかったお湯が早く温かくなるのを
待ちながら湯船に二人で浸かっていた。沸かし口から出てくる暖かい
湯を私の方に手で送ってくれながら、「自分にばっかりとろうと
しなくても、ひとにまわしてあげてると自分のところにもちゃ〜んと
くるのよ。情けは人のためならず・・ってね」と。ふたりで、お互いに
相手に向かってお湯を送りながら、笑っていたことを・・・。
 本当に突然に思いだした。