撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

達彦さん、帰ってきて!(純情きらり)

 かねが、桜子に達彦の嫁になってくれ、と頼みに来る。今までの無礼
を謝って・・。かねさんが頭を下げるのを見たのは、記憶の限り初めて
だ。いつもふんぞりかえって歩いているあのかねさん・・。笛子にどういう
つもりか?と問われ、おじいちゃんにとんでもないとどやされ、好きな
娘が待ってくれていれば、何としても生きて帰ってきてくれるのではないか?
それに賭けたい・・と涙ながらに話す。


 いつも犬猿の仲で、お互いつっかかってばかりの磯さんが、その場を
とりなす。かねの、その唐突な申し込みも、息子を思うあまりに出た
ことだと察してくれる。そして、なにより本人の気持ちが大切だと
桜子の気持ちを聞く。
「わたしは、達彦さんと一緒になりたいです」
 その、純粋なまなざしと一言に、自分と同じ、息子達彦を一途に思う
桜子の気持ちを感じ取ったのだろう。「ありがとう・・」とかね。


 昨日、桜子からもらった帽子を見ながら、達彦が、「あまりかぶる
機会がなかったなあ・・」とかねの前でつぶやくシーンがあった。ドイツに
いけなかったのもあるが、そのしーんとしたつぶやきの奥に、すべてを
整理し、すべてをあきらめて、ただひとり戦地に向かう達彦の、すべてを
受け入れた故の、命への執着の薄さを感じたのは、私だけではなかった
だろう。帰ってこないかもしれない・・・と。


 戸田恵子をもってして、かねがただの意地悪女で終わるわけはないと
以前書いたが、確かに、見事な変貌だった。意地や我が儘をそぎ取った部分を
好みや利害関係を排除した目でみつめれば、意外と仲良くなれる関係は
増えるかもしれない。追いつめられた非常時になるまえに、それに気づけば、
世界はもっと生きやすくなるかもしれない・・・。