撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

二度と来ない日

 知り合いが突然亡くなった。連絡を受けたので、どうしようかと迷いつつ、夕方の通夜にでることにする。その昔母が言った。「さようならのあいさつだけは出来る限りしておきなさい お祝い事はあとで埋め合わせられるけれど、さようならはもう二度とできないのだから」


 こんなときでなければ会えて嬉しいのにという人たちの顔を見ながら・・お別れのお顔があまりに自然で、今にもなにかしゃべりそうやね・・っていうのが本当にそう思えて・・そんなに親しかったわけでもない私がこんなに淋しいのに、大切にそばにいたひとたちはどんな想いでいるのだろうと考えるとますます何も言えなくなる。


 20代から通っている音楽関係のお店のバンドの歴代メンバーのひとり。いまはそれぞれにお店を持っているのでそうそう会いにもいけないけれど、ずっとご無沙汰していても行くとそのころと変わらずにちゃん付けで呼んでくれる、まるでいとこのお兄ちゃんたちみたいな存在なのだ。この間しゃべったのはいつだったのかな?そのひとともうひとりの知り合いのこと、自分たちの関係を楽しそうに話してくれてた。もう、あの話の続きは聞けないのだと思うとたまらなくなる。


 若いころにバカやってたことも懐かしい思い出話になって、若いころには恥ずかしくて言えなかったことも面と向き合って話せるようになって、これから繰り返し繰り返しそんな楽しい集まりができるはずだったのに、そこにその人はいなくて、みんなが言い知れぬ淋しさを抱えて佇むことになる・・・。やったことはいつか笑い話にできるけれど、やらなかったことは一生胸に抱えて生きるしかない・・・。


 帰り道、ひとりで都市高速を飛ばしながら、死ぬってことはこんなことなんだ、生きてるってこととはまったく違うのだ・・と当たり前のことなのに、それが胸に迫ってくる。美味しいもの食べることも、笑うことも、手をつなぐことも、喧嘩してそっぽ向くことさえ、生きていなきゃできないことなんだ。


 博多パラダイスの赤い灯がやさしく薄闇に浮かびあがってくる。燈色が滲みそうになるのをいけないいけない・・と持ち直して・・そう、それでもこんな風にいつものように動いていくことが、それが生きていくことに他ならないのだ・・と考える。