撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

不思議(ちりとてちん)

 ずうっと知りたかったんです・・・ずうっと不思議やった
んです・・と、塗り箸を手に話す糸子さん。そんな糸子さんを
みつめて笑顔をこぼす正典。


 「翼をください」の音楽が違う国の言葉で流れる。確かに
覚えのある景色がまるで夢の中のことのように見える不思議。


 水玉のワンピースから伸びた糸子のきれいに揃えられた脚が
綺麗だった。めったに言わない正典の照れくさそうな賛美の
言葉は届いたのやら届いてないのやら・・。いや、気付かない
ふりをしてほかのことにとらわれている様子をしていても、
そのあとの、正典の自分に向けられた笑顔と一緒に心の中の
大事な場所にそっとしまったに違いない。
 ふたりで微笑み合ったあとにそっとうつむく糸子の様子は
その幸せを確かめているみたいだ。その宝石のような輝きを。


 ふたりが出逢った不思議。共に生きている不思議。いつしか
父と母になった不思議。・・そして、突然出逢った頃のような
少年と少女のようなふたりになる不思議・・。糸子が口元を
ちょっぴり曲げる表情と、正典のどうしたらいいのか分からなくて
不機嫌でもないのに不機嫌に見えてしまう困った顔が、何とも
可愛らしくて胸がきゅんとするようだった。