撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

分かってくれるひと(どんど晴れ)

 言葉巧みにだました「ビジネスパートナー」という秋山に
怒りをぶつけようとする伸一。しかしながら、その瞳の奥に
ある怒りは加賀美屋を乗っ取ることを責めているだけでなく
もっと深い悲しみを湛えていたように見えた。本当に信用して
いた人間を裏切ったという・・そう、伸一は欲でも得でもなく
夢のために秋山に賭け、秋山を本当に信じたということ・・。


 柾樹は秋山たちのすることがどういう意味を持っているか
理解している。そして、夏美もそのことは充分承知している。
株券を返してくれ・・と夏美が懇願したのも、そんなこと出来る
わけないと分かった上でのことだ。秋山側の人間たちが無知を
嘲笑するような表情を浮かべていたけれど、無知ではない。無理と
分かったそのうえで、それでも夏美は秋山に頼んだのだ。


 高級老舗旅館、加賀美屋を誰にでも泊まれる旅館に改革する
という案に、思わず呆れる環。秋山さんたちにはおわかりに
なっていただけてないようですねえ・・とのひとこと。


 わたしはここに仕事で来ている、あとはやり遂げるだけです
という秋山。そんな秋山に「秋山さんはいいひとです」という
夏美。事務所に帰って仲間が加賀美屋の古さを話すのに「あの
良さがわからんやつにはなにもわからんよ」と呟く秋山。


 仕事だからやっている。仕事だからひとの気持ちを傷つける
ようなことをしても仕方ない。仕事だから・・とそんなことを
やってきた秋山の本当の心を覗こうとしたひとは今までいただろう
か?甘い言葉、気持ちの良い態度も、仕事を成功させるための
偽りのものだった・・と裏切られた気持ちでなじられたことは
数限りなくあったことだろうが・・。それも仕方ない・・仕事
なのだから・・と秋山は納得の上だっただろうが。その美しい言葉
繊細な神経を・・それを持っている秋山がどうしてそんな仕事を
・・と、考えてくれた人など今までいなかっただろう。


 夏美の「秋山さんの本当の気持ちは?」「あんなことが出来る
ひとが悪いひとのはずはありません」などという言葉達は秋山の
心を揺さぶっているにちがいない。仕事の仲間たちの言葉に
思わず冷めた言い方をした秋山は、この仲間ですら、仕事だから
つきあっているだけの人間達・・、自分の心が本当に求めている
ものはここではない、とどこかで感じ始めたかもしれない。


 伸一が秋山に騙されたのは、秋山が自分の夢を、自分の情熱を
分かってくれたそして自分を認めてくれたと思ったからこそだ。
 人は誰もが本当の自分でいられる場所を探している。本当に
自分がこうありたいと願っている自分を認めてくれるひとを心の
どこかで欲しているのだと思う。
 ・・秋山とて、その心に変わりはないと思うのだ・・・。