撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

逃げないで向き合う(さくら)

 真樹子さんとのお見合いを決心した桂木先生。いまさら、なんという
話をするわけでもないのだけれど・・。事故・・けがのことで、慶介が
どれだけ苦しんだか、どれだけ真樹子に申し訳ないと思っているかは
もう真樹子は充分分かっていたのだろう。ひとことも言わなくても、今さら
謝りの言葉を聞かなくてもよかったんだね。問題は、そのあと。その
あと、目の前の自分をどれだけ見て欲しいと真樹子は思っていたこと
だろう。真樹子だってもちろん苦しんだに違いない。気にすまいと
思っても気にせずにいられるわけなどないもの。決して慶介のせいになど
するつもりはないけれど、自分がどれだけの想いを抱えてそれでも慶介の
前に立っているのか、その気持ちをきちんと受けとめて欲しかったに
違いない。逢わない方が楽。別れる方が楽。ののしって憎んで恨んだ方が
楽なこともある。・・・しかしながら、大好きな相手にそんなことは
したくない。ひとつの出来事だけで、ふたりの思い出すべてを汚すような
悲しいことはしたくない。そして何より、そんな自分が許せない。そんな
ことをしては、前に進めなくなる・・・。そんな必死の想いで、目の前から
姿を消さずにたっている自分を本当に見て欲しかったんだ。


 逃げないで向き合えたら・・・こうして顔を見ることができた・・
という桂木先生。いい女になったな・・という慶介にやっとわかったかと
返す真樹子。


 高校生の時の気持ちと今の気持ちはちがうんだ、いい思い出だ、といって
から、さくらのおかげでいい思い出にすることができた・・という桂木先生。


 この二人ほどではないにしても、一緒にいるうちにちょっとしたわだかまり
や、口に出せない自分なりの想いが、積もっていくこともある。その重大さや
扱い方はひとそれぞれだから、どうすべきなのかは難しいけれど、それに
囚われて、いま現在の相手と素直に向き合えなくなっているのなら、それは
きちんと逃げずに解決したほうがいいのかもしれない。瞳をそらさず、逃げ
隠れもしない相手と向き合うことは、意外と勇気のいることなのかもしれ
ない。逃げられることが恐くて、やさしく目をそらしてあげてしまうことも
時にはあるかもしれない。それでも・・・前に進むためには逃げずに向き合い
たい。人を想い、思いやる、余裕を自分の中で育てることを忘れないことと
ともに・・。