撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

絡み合う糸(どんど晴れ)

 聡が夏美に言った「女将の仕事がほんとに好きでやってたんじゃないのか」
という言葉はなんだか涙が出てきてしまった。


 二人で幸せになりたい、と言った夏美。その言葉を今日は柾樹が使う。
ふたりとも相手のことを思いやりながらも何だかしっくり噛み合わないで
いる。


 相手の幸せを望むからといって自分が無理をしたらふたりの幸せにはなら
ない。自分が心地よい気持でいてもそのために相手が我慢を強いられてるの
ならそれもふたりの幸せにはならない。あなたの幸せがわたしの幸せなんだ
なんて言ってもそれは自己満足の嘘っぱちになってしまうことだってあるの
が悲しい。それもそれと気づかずにいるともっと悲しい。


 素直になることは自分がしたいことをすること。それは別に我が儘になる
ことでも、楽な方に流れることでもない。自分が決めて、自分が無理をせず
に、頑張ることまで含めて楽しんでやること。そんなことが出来る事って、
やっぱり好きなことしかできないと思う。


 柾樹が旅館を継ぎたいからといってそれだけで夏美が女将修行に耐えられ
わけでもないし、女将になれるわけでもない。いつしか夏美のこころのなかに
「好き」のこころが芽生えたからこそ頑張っていたんだろう。それは柾樹の
ため・・というだけではおわっていない。


 人を愛するとき、ただ好きだ!って言えたらいい。相手がどうとか返事が
どうとかそんなじゃなくてただ毎日「大好き!」って言いたい。そして相手
からもその心が来れば(返ってくるのでなく純粋に来れば)それはそれだけで
幸せなことだ。好きというほど不安になるような時は、自分の気持ちしか
見ていないことが多い。自分が不安になるのと同じように、自分が切ないと
思うのと同じように、同じ気持ちでいるひとは相手もそう思っていることに
なかなか気づかない。


 ひとつのことが始まると、さまざまな物事が、ひとたちが、複雑に絡み合
って、もともとのかたちがなかなか見えなくなってきてしまう。それでも、
一番最初にあるのは自分の気持ちなんじゃないか・・そのシンプルな想いを
信じていいんじゃないかって思う。