撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

生と死の境目

 今朝、急に雨が降り出したので夫を最寄りの駅まで車で送っていく。その
帰り道で、ちょっとばかりショックなことがあった。


 信号待ちで眺めていた前方の県道に、スズメの姿。じゃれ遊ぶような様子の
2羽のスズメ・・と、道路に降りたその瞬間、車がその上を横切る。車が
通り過ぎたあとに、1羽のスズメは慌てて飛び立ったが、もう1羽のスズメは
その場にうずくまる。少し羽ばたきをしたかに見えたその瞬間、またもやもう
一台車がとおる。・・・二度と動かなかったスズメ。


 一瞬の出来事だった。世界がふたつに引き裂かれて、ひとつはそのまま流れ
もうひとつはその場に張り付いて動かなくなって終わってしまったようだった。
 間もなく信号が変わり、こころのいくらかをその場所に置いたままに、走り
過ぎてしまった私。こんなにも目の当たりに生と死を見せつけられたのは
初めてのような気がした。


 人間とは違う・・人間とは違うけれど・・。紙一重で変わる生と死。
見向きもされぬ骸。凍り付いたようにとまる時。ゆくりない終わり。


 死ぬことを考えると生きることを考える。生きることを考えると、
死ぬことを思い出す。この上なく幸せな気持のときに、いつまでこの時が
続くのかと、大切な人のことを思うとき、もし、命断たれたらどうなるの
か・・と。
 死んでもいい!と思えるほどに幸せを感じるとき、本当は死など願っては
いない。本当は、永遠に続け!と願う。もう一度・・何度でも・・と祈る。
 ただ・・その出逢いに感謝するとき、出逢えただけでも満足なほどに幸せ
なのに、そんなに願うのはこの上なく贅沢で、奢ったことではないか・・と
不安にもなる。
 死んでしまいたい、と思うときに、本当に消えてなくなりたいとは思って
いない。だれかに、このちっぽけな自分をまるごと抱きとめてすべてを赦して
もらいたいとどこかで望んでいる。後ろを振り返りながら、どこまでもどこ
までも闇の中を走り続けるような自分の心をだれかにつよく抱きしめて
もらいたいと思っている。


 生と死は裏表のようにひそやかに結びついている。饒舌な生、物言わぬ死。
結びつく生、断ち切る死。溢れ出る想いや、数限りない思惑や、およそ
出来ないことなどないのではないかと思えてしまうくらいに膨れ上がった
人間の存在に時にすべてが叶わないこと、通用しないものがあると、厳然と
見せつけるようにあらわれる死という事実。その事実ゆえにいっそう際だつ
生きるということ。


 何もできない小さな存在だからこそ、自分の力の限りに生きていきたい
と思う。儚い存在だからこそ、つよい気持で愛を感じたいと思う。