撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

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 あの子が私に初めてくれたプレゼントは、陶器の人形のかたちをした
オルゴール。なんの曲だったかは忘れてしまった。喫茶店で、あの子を
喜ばそうと、ちょっぴり鳴らして見せたら、恥ずかしそうにするかわりに
「こんなところで鳴らしちゃ・・」と分別くさいことを言ったのを、
棘のように覚えている。


 多分、あの子は、私が自分のことを必要としていると思ってくれて
いたんだろう。私の誕生日の4カ月前、秋のある日に、そう思わせて
しまったんだろうと、今になると分かる。みんなでお酒を飲んでいた
その日、あの子と初めてしゃべった。わたしがあんなにおしゃべりだった
のも珍しいことではあった。自分は主役になれる人間ではないと思って
いたし、そんなばかばかしいことをするつもりもないと思っていた頃
だったから。送ってくれるというあの子の腕に自分の腕をまわして
ずっとしゃべり続けていた。頭の中では、なんでこんな初めてしゃべった
ような人にならためらいもなく腕を伸ばせるんだろう・・2年も思い続けた
あのひとには、指一本触れられず、となりを歩くだけでも息が止まりそう
なほどだったのに!と、考えていた。なんて、ひどい女!と思うほどには
自意識を持っている、嘘つきのおんなだった。