撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

忘れたわけやないけど(芋たこなんきん)

 町子とおかあさんの会話。町子さんが、おかあさんの話を聞く
真剣な眼差しがとても残った。「時間なんて関係ありません」と。
大切なひとをなくした痛みや怖さは、時間がたったからといって
消えたり忘れたりできるものではなく、思い出すたびにそのまま
蘇るように、心の中に残っているのではないか?と。それは、大事
な大事なひとをなくす・・そんな想いを味わった人なら、みんな
だれでもそんな気持ちを持っているんではないか?・・・と。


 人の心の中は不思議だ。幾層にも重なり、さまざまに色を変え
形を変え、自分でも分からないほどの様々な想いをその中に秘めて
いる。忘れようと封じ込めた気持ちも、乗り越えて塗り替えたつもりの
想いも、ほんとうはどこかで「そのまま」生き続けているのかも
しれない。きれいに磨き上げて、「思い出」の棚に並べたはずの
遠い昔の出来事が、ある日突然、どうしようもなく心を苦しめたり
胸をしめつけたりすることもある。


 本当は、だれのせいでもないことも、どうしようもなかったことも
わかってはいるのだけれど、それでもひとりで持つには重すぎて、誰か
のせいにしなければ持ちこたえられないほどの想いもあるのかも知れない。
 ・・・それでも、忘れたわけではない思い出は、決して忘れたくない
思い出なのだろう。憎みたいほどに、関わって欲しい人なのだろう。
もし、一緒に涙を流すことができたら・・その胸を痛める出来事もまた
きらきら輝く優しい思い出の棚に戻すことができるだろうか?・・・。