撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

息子への想い(芋たこなんきん)

 父は言う「お客さまに喜んでもらうのがいちばんや。お客さんが
撮って欲しいときに撮るんや」。息子はいい写真やないと喜んで
もらえん・・と。頑固やなあ・・と笑う父。


 自分の不調をしってか知らずか、息子たちのために、不動産を手に
入れ、顧客を増やそうと頑張っていた父。しかしながら、それだけでは
なかったのだろう。これが最後の写真になるかもしれない・・という
気配を感じ取れば、どんなに忙しくてもどんなに無理をしてでも客の
頼みは断れなかったのだろう。そして、写真家の父としても、自分の
撮れる写真もどこまでか・・と、自分のからだと、時代の気配を
感じ取っていたのかもしれない。「息子の方がわたしより腕はいいんです」
と言った父。その言葉は息子にとって最大級のプレゼントであり、大切な
バトンでもあることだっただろう。


 息子のいない食卓の席をじっと見るばあばばあちゃんが切なかった。
息子の死を嘆くばあばばあちゃんの声は胸を引き裂かれるようだった。
母が亡くなったときに、祖母が「長生きしていてなんのいいことがある
ものか・・」とつぶやいたのが今でも胸にささっていることを思いだした。


 出会いは突然だが、別れもまたゆくりない。友達と仲直りした町子。
旅行の前には用事を済ませて、部屋を片づけてから行くものだ・・と
小さい頃からよく言い聞かされた。そして、出掛ける人には笑顔できちんと
挨拶するものだと・・。出会いが奇跡なように、再会もまたそれと同じだけの
奇跡なのだと・・・もういちど胸に刻みつけておきたい。本当にそういう
時代がすぐ前にあったことと共に・・・。