撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

すべてを受け入れる(芋たこなんきん)

 母親の本を書棚に見つけ手に取る長女。町子に気づいてもとに
戻そうとする。「お母さんの本読んだことある?あたし大好き
なんよ」そう言って、長女に本を渡す町子。


 娘は母の書いたものをどんな気持ちで読むのだろう。子供は
視野が狭いと言う。ある年に達するまでは、視野も狭く、一度に
ひとつのことしか考えられないという。母は、母親であって
その他の顔を持っていることなど想像も出来ないし、許せない
ことだろう。自分を見ていない親など要らないと思っている時期
もあるかもしれない。


 本の中には、別の母の顔があると思う。しかし、大人になって
いくにしたがって、目の前にあらわれるものをそのまま理解する
だけでなく、その奥に住んでいる根っこの部分のその人を
見つけることが出来ることだろう。私に伝えてくれた大事な真実を
ここでも母は語っている・・と気づく日がくるだろう。そして
また、母は、自分の母であるだけでなく、一人の人間なのだと
いうことを認めることができるようになっていくのだろう。


 母の書いたものを大好きだと言ってくれた町子に、長女はどんな
気持ちを抱いたのだろう・・・。


 家族や仕事やそれまでに愛した人・・すべてのものごとが、その人を
かたちづくっている。そのひとをそのままに愛すことは、その丸ごとを
認めることでもある。なくしたものすら、そのままに大切に心の中に
住まわせていていいのだ・・と受け入れてもらうこと、その心の痛みも
一緒に抱きしめてくれること・・・。町子にとって、徳永先生を愛する
ことは、そのすべてを受け入れることであることに、長女は気づいたの
だろうか?