季節の変わり目
お昼過ぎ
いい天気
車で仕事場へ
なにか思い出しそうな気がした
「は る ・・・ 春 だ」
日差しが車の中を暖めるのはよくある話
温度だけでなく
なにかが・・・春・・・だった
ひとつひとつははっきりとしない思い出が
春という共通項だけを頼りに一気に押し寄せる
懐かしくて
切なくて
幼くて
儚くて
幸せで
・・・やっぱり涙が出そうなほどに切ない
青空に枝を伸ばす桜の木からピンク色が立ち上り始める頃
ああ・・・今年ももうすぐ春がくるのだなと・・・
入学式のために用意した洋服だとか
旅行を待つバッグのかたちだとか
卒業する先輩に贈る品物の準備だとか
一緒に見られなかった桜だとか
まだ冷たいはずのに温かく輝く波打ち際だとか
母が亡くなった日に
縁側のガラス戸を開けて
なにか思ったことを思い出したり
季節の変わり目の気配に
記憶の引き出しが際限なく開く
こころのなかの衣替えでもするつもりなのか
それでも
これはすべて捨てない
捨てたつもりの思い出すらも
きっとどこかで小さく折りたたまれて
ひっそりと大切にわたしのかけらをつくってくれている