撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

季節と季節のはざまに

なんやかやと慌ただしい気分で家を出た
仕事先に向かいながらちょっとした忘れ物を思い出して迷った
あきらめようかとしたら携帯電話まで忘れていたことに気づいて
しかたなく決心して家まで戻った
勝手口からはいることにして裏へと回る
ふとなにげなく目をやった先にいなくなった犬の気配を感じてキュンとする
ああ・・ここを通ると思い出すのよねと、久しぶりにふうと息をつく


台所の扉を開けて今度はなぜか父の気配を感じる
このリフォームしてからの台所に父が立ったことはないはずなのに
なんの違和感もなく、たたきのあたりでストーブに灯油を入れている
父のうつむき加減の横顔を見た気がしてもうたまらなくなる


どうしてなんだろう
なにがあったわけでもないのにどうして突然?


きっとこの空気のせいだ
きのうまでとは明らかに違う
すこし緩んだ温かく湿った空気


季節が行ったり来たりしているそのすきまに
ぽっかりこの世とあの世の通り道ができてるんじゃないかしらと思える


もしくは・・・


この世の中はすべておなじ物質が並び方を変えて
いろんなものをつくりだしているだけで
いま
ここにあのころとおなじような並び方がほんわりとできて
私の記憶がそれを敏感に感じ取って認識した?


どちらにせよ
いっとき、その気配にやさしく包まれる
逢いたい人に逢えなくても
逢いたい人がそばにいると感じさせてくれること
それは切ないけれど幸せをくれる


逢いたい人がいるということ
それもまた幸せな記憶があるからこそのことなのだから・・・