撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

顔を上げて

 新しい仕事がまもなく本格的に始まる。時折、何でこんなことを
初めてしまったんだろう・・と怖ろしくなる。しかしながら、この
トンネルを抜ければ間違いなく明るい空が広がっているという強い
確信に似たものも持っている。心は毎日揺れ動きながら少しずつ新しい
世界に慣れようとしている。


 自分でやることは自分でやるしかない。ほとんどを自分で仕切ること
のできる狭い世界で生きてきた主婦としては、自分以外の人と仕事を
分け合いながらひとつの物事を完成させていく上で起こる様々な些細な
すれ違いや心遣いの加減がまだまだ分からなくて一番神経を遣う。色々
な場面でひととの関係にはなれていたと思っていても、自分がまだ何も
できていないという心細さがつい心を弱くしているのだと思う。


 新しいことを始めると、妙に子供の気持ちが分かる。入園・入学など
新しい環境に入ったときの子供の様子を思い出す。妙に疲れていたり、
やけに不機嫌だったり、ぺらぺらしゃべったと思ったら急に黙り込んだ
り・・。子供たちは、日々新しいこと、初めてのことに出会って、その
心の中は嵐が吹き荒れたり、くるくると雲の動きが変わったりしている
のだろうなあ・・。


 先日のラグビーで何かの話の中でふとあるコーチが発したひとこと。
「あいつは自分が上手いことに気づいてないもんなあ・・」


 ああ、それはその子がそれまでやってきたことに自信を持っていい
ってことなんだろうなあ・・って思った。いろんな子がいて、そのとき
そのときで活躍が表に表れる子はそのとき次第なのだけれど、一生懸命
やってきたことはきっとその子のものになっている、力になっている。


 ひとはみな、成長したがっている。素晴らしい場所へ行きたいと思っ
ている。しかしながら、それがどこにあるか分からなくて悩んだり、
迷ってさまよったりしているんだろう。


 目指す場所に行くためには歩くしかない。まず、一歩踏み出すしか
ない。そして、自分の持っているものを何とか使って探っていくしか
ない。そんなときに、怖れることはないんだ。これまでやってきた
ことが支えてくれる。これまで出会ったひとが守ってくれる。子供
だって、大人だって、懸命に生きてきたことは、知らず知らずのうちに
目に見えない財産を作ってくれているに違いないのだから・・。


 悩んでいる子供たちにくらべれば、目指す場所が分かっている私は
幸せだ。そこに向かって進めばいいのだから・・。いま、「大丈夫!」
と、励ましてくれる友人や先輩がとてもありがたい。その人なりに乗り
越えた経験を持って、そう言ってくれていることがとても感じられる。
 私もこの山を乗り越えて、笑顔で、「大丈夫だよ!」って言える存在
になりたいと思っている。


 大きな夢を持ちながら、その夢に押しつぶされることのないように
日々の何気ない、しかし大切な小さな仕事をひとつひとつクリアして
いくこと。


 日々、訪れる新しい出来事に常に謙虚に向き合うこと。しかしながら
自分の考える大切なものを曇ることなく自分の中に持つこと。


 物事はバランス・・とは言っていたけれど、いままではやじろべえの
真ん中でふらりふらりしているほどだったのが、これからは、振り子の
下にぶら下がってあちらこちらへ飛び出しそうになりながら自分の
戻る場所を忘れないようにバランスをとっているような、私にとっては
大きな動き・・大変な冒険・・になっているような気がする。


 まずは、顔を上げていこう。
 顔を上げて恥ずかしくないだけのことをしていこう。
 いまの・・ありのままの自分しか自分にはないのだから。
 いまの、ありのままの自分を認めることなしに
 これからの自分を作り上げていくことはできないのだから・・・。