撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

そこにいることいないこと(ちりとてちん)

 小草若がこんなこといいたないけど・・と言いながら、草々と
若狭に喰ってかかるのが切なかった。昨日からついに、息子として
の小草若・ひとしの部分が出てきているのが、切羽詰まっている
ことをあらわしてもいるけれど、ここで出してくれてどこかホッと
している部分もある。そんな小草若をじっと見ていた四草の眼差し
がなんとも印象的だった。師匠がそこにいる間はどうしようもなく
たまらなかったその親子という血のつながりが、いなくなってしま
ったときには、また別の意味で動かし難い絆にもなるのだ。多分、
四草はそのことを分かっている。小草若が血のつながりを「たまら
ない」と言っていた時に、何も繋がっていない・・本当に芸でしか
繋がれない、受け継げない自分がどんなにまた別の意味で苦しい
想いをしているのかずっと抱えていたに違いない。多分、ひとつに
なりたいほどに師匠を尊敬し、愛しているに違いないのだ。四草は。
 だからこそ、草若師匠と血の繋がっている小草若が、いろんな
意味で気になって気になってしようがないのではないのかと思う。
羨ましくて、歯がゆくて、愛おしくて、憎らしくて・・・。


 小梅さんがやってきたように、正典と正平まで草若師匠のいえに
やってくる。何かあったようだから・・何があったのか分からなくて
心配になったから・・。そばにいるひとが気づくこと・・何もでき
なくてもなにか気づくことってこんなことなんだろうと思う。


 小梅さんが「正太郎ちゃんに言えなかったことを・・」と言いつつ
草若師匠に掛ける言葉が切なく、そして優しかった。近すぎて言え
ないこと・・分かりすぎるから口出しできないことってある。
 譲れないものを持っている男の人は、そしてそんな男に惚れている
女はなおさら・・。それでも、そんな気持ちも充分に知りながら、
時にそんなところをぽーんと乗り越えてホントのこころを伝えようと
する小梅さんみたいな女の人って素敵だ。涙を流しながら、正直な
想いを伝える小梅さんは、とっても大人でとっても女で可愛かった。


 
 小梅さんの話を聞いた草若師匠はいくらか落ち着くことができただろう
か。しかしながら周りのみんな・・特に弟子達はまだまだ揺れ動く心を
耐えかねていることだろう。そこにいるひとがいなくなるという恐怖。
大切なひとが・・。いなくなっても、決して、何もなかったことになる
わけではないんだ・・と思えるのは、そのとてつもない空白を耐えて
耐えてそのあとにようやくゆっくりと感じられるもので、今はまだとても
とても・・。遺していくものも、遺されたものも、どちらも同じように
辛いのだということに気づくことすら時間の掛かるものなのだから・・。