撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

喜びを与える夢(どんど晴れ)

 夏美と出会っておれたちみんな変わったもんな・・


 嵐のような出来事もようやく解決に向かい、庭のお地蔵さま
に向かって手を合わせる伸一が時江にそうつぶやく。


 父が夏美と智也にお菓子づくりは・・と話す。そう・・
お菓子は、日常の食事とは違う。非日常を感じさせる、夢への
架け橋・・。ただの食べ物ではない、こころで食べるたべもの
なのかもしれない。それが、お菓子をつくるところから始まって
いるし、お菓子を買いにいくところからも始まっている。そして
食べ終わったあとの余韻まで・・・。


 来るものに安らぎを・・
 去りゆくものにしあわせを・・


 旅館のおもてなしというものも、幸せな夢を与える仕事なの
かもしれない。お客様が自分の家に帰ってきたようにくつろいで
もらう・・そんなおもてなしの心で心を尽くすこと・・。


 この加賀美屋に賭けていた・・という秋山。夏美があらわれた
ときに、自分のこれからを賭けてみたい・・といった大女将カツノ
のことを思い出した。そんな秋山に、いろんなことをすべて言う
ことはせずに、ただ礼をいう伸一。どれだけの想いでその一言を
言ってくれたか、秋山にはきっと通じたと信じたい。


 「信じたい・・」そう思うひとたちの心が夏美の何かを感じ取る
のかもしれない。家族の愛・・大切なひとの心・・目指すべきもの
人間の暖かさ・・真実の豊かさ・・心の平穏・・平和な世界・・。


 人が人を思いやる心は必ず伝わると、夢はかならずいつか叶うと
そう信じる心は決して無駄にはならないと・・ひとはみなそう信じ
前を向いて生きていきたいと願っているのかもしれない。いつか、
そう信じるひとたちのこころが広く遍く世界中に伝われば、この
世界は穏やかな幸せに満ち溢れるのだと、そう信じたい・・・。


 平治さんの孤独が、聡の一人きりの決断が、さくらのシブースト
の明るい華やかさと対照的に映った。しかしながら、このふたりの
誰にも気づかれない孤独と、ただ愛する人を想うゆえのある種の
献身は、おもてなしの心にも負けない、見返りを求めない純粋な
思いやりなのではないかと思う。女将の孤独にも通じる、ひとが
自分のどこかに抱え持たなければならない深い孤独をも感じさせる。


 ひとは生まれる時も死ぬときもひとりではあるけれど・・孤独な
ものではあるけれど、それはこの世に生まれたものすべての生き物の
どうしようもない宿命でもある。ひとは、その孤独を感じるこころを
持っているということだ。心を持っているということは、幸せを
感じる心も、信じる心も、だからこそ持っているということなのだ。