撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

 22

 波はわたしに囁く。わたしの胸をざわつかせる。何かを待って
いるような・・何かに追いかけられているような・・・。胸の
中で、あの海で見た、波が生まれるあの瞬間のような、白い無数の
ちいさなあぶくがふつふつと湧き出ているように感じる。それは
意味もなくわたしを切なくさせる。どうしてわたしをこんな目に
遭わせるの!と、訳もなく腹立たしい気分になる。しかしながら、
決して怒っているわけでないのだ・・決して・・。
 鏡を覗くと、そこには困った顔のわたしが写っている。違う・・
これは恋する女の顔なんかじゃない!


 恋・・・自分でその言葉に驚いてハッとする。わたしが待っている
ものは、恋の手応えなのだろうか?恋だとか、愛だとか、女にとって
そんなものは幸福の象徴だと思っていた。しかしながら、お腹に
命を宿したときですら、その幸せが女を充たすのは、その膨らみと
重さと、存在を感じてから・・なのかもしれない。あるかなきかの
そのころには、それはただこころに引っ掛かるだけの、なんとも
頼りない存在であるのだ。わけもなく心が浮き立ったり、またすぐに
意味もなく沈み込んだり、いっそ何も知らなければこんなに心を
かき乱されることもないのにと、歯がゆかったり・・・。


 ほんの数時間一緒に居ただけの、何も知らない男に、こんな気持ちに
させられることを、どこかで憎むように・・知らないうちに、私は
肘をついて爪を噛んでいた。