撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

ああ、うんめ・・(どんど晴れ)

 平治さんが、夏美の淹れたお茶を飲んで発した言葉・・。
生きている実感って、こんな何気ないひとときなのかも
しれない。今までどんな状況にあったとか、だれがどういう
いきさつでこのお茶を淹れてくれたか・・なんてことは
とりあえず置いておいて、お茶を飲む、身体に入る、ああ、
あったかいなあ・・おいしいなあ・・って思って思わず、
素直にでるひとこと・・。こだわらない自在の心というのは
そんな当たり前の素直なひとことが口に出せるかどうか・・
なのかもしれない。


 夏美に平治が言う・・。気に入った茶釜が出来れば、持って
いかせるつもりではあるが、気に入らないものは自分は捨てて
しまう、それはどうなるかはわからないぞ・・と。


 期待はするな、心配もするな、ただ出来上がるのを待つだけ
だ・・と。


 懸命に自分の道を進む。最高のものを作ろうと励む。しかし
ながら、どうできあがるか、自分の思ったままに出来上がるか
それは、自分の力を超えた先にしか出てこない。それは、充分
分かっていたけれど、時に焦ることもあるのだろう、平治さんと
いえども・・。夏美の、そのままでいい・・という言葉と、ただ
ひたすらいいものが出来ますように・・と信じて待つその存在は
平治さんが一番大切にしたかったものかもしれない。


 おまえさんといると調子が狂う・・と夏美にいう平治。なんの
こだわりも、思惑もなく、ただ心を開いて向き合われると、ひとは
思わずぽろりと本音をこぼすのかもしれない。ほんとにほんとの
素直なこころを見せるのは、裸を見せるよりももっと恥ずかしいほど
無防備なこころをさらけだしているのかもしれないな、などと思う。