撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

人間が好き(芋たこなんきん)

 はじめは何とも感じなかったカンジが見るたびに魅力的に
見える。ひとなつこくって、したたかな感じは初めからし
けれど、それ以上に今日は優しく見えた。


 写真教室を始めたおとうちゃんが彼にも来るように言う。町子
がようやく気づき始めたおかあちゃんのおめでたを、ほんの数分で
感じ取る、その観察力・洞察力は、よくものを見るいい眼を持って
いるかもしれない、と。そしてカンジと数日を過ごして、「かれは
人間が好きなのだろう」という。


 カンジの家庭も生い立ちもまだいっさい分からない。今日、町子
に向かって「自分が恵まれていることに気づいているんか?」という
ひとことがあった。


 写真に興味があるのかホットケーキに興味があるのか分からない
子供達。この教室もいつまで続くかも分からないけれど、この中の
何人かは、大きくなって豊かになって、自分のカメラを構えたときに、
ふと、あのホットケーキの甘さを思い出すかもしれない。
 町子が、台所でホットケーキを焼いていた母の優しい横顔を忘れない
ように・・。きれいな焼き色をつけるためにフライパンを濡れ布巾で
冷ます、あのじゅっという音までよみがえって聞こえそうだ。