１１月になると・・・

　11月になると、父のことを思い出す。１年あまりの入退院ののち
息をひきとった父のことを思い出す。秋に転んで病院に運ばれ、同時に
病気が見つかり、入院中に一度危険な状態に陥りながら、なんとか
年を越え、治療と処置と、本人の気力で、幸運にも退院し、旅行が
できるまでに回復し、それでも次の秋にはやはり再入院し、最後の
２カ月は自宅に帰り、自分の家で家族に囲まれ、穏やかに、でも
やはりゆくりなく息をひきとった父・・・。父を看取ったその部屋で
眠りながら、突然蘇る記憶に胸がしめつけられる。

　病院や介護保険やさまざまな交渉の中でいろいろなことを教わった。
そして、それが苦にならなかったことに感謝していた。父と母は、
私にそれだけの力を蓄えさせてくれる機会を与えていてくれたのだ。

　結局最後までガンを告知しなかった。迷いながらもそれは間違いでは
なかったと思っている。ホスピスと同じ処置をしていただきながら、
それだけはこちらのやり方でお願いした。

　大きな病院で輸血や手術をする前には必ず同意書と誓約書を書かされた。
この手術後の生存率は何パーセント・・と説明する先生に、そうではなく
父本人にとってはこの手術は本当に必要なんですか？と詰め寄って
話し合いをし直し、手術から他の処置に変更してもらったこともあった。
　その若い外科医の先生が転勤でその病院を離れられるときに、患者さんと
一人のひととして向き合うことを教えてもらいました・・と言って下さった。
　わたしにとっても、家族を守るのは家族のつとめだ・・まして子供を守る
のは親に他ならない・・そう、強く教えてもらった。

　最期の日に明日の話をしていた父。息が途絶えるかと思った瞬間、
息子の呼びかけで、かわいがっていた孫の「おじいちゃん！」の声で
もういちど精一杯呼吸しようとしていた父。もうすぐやってくる５回目の
命日を前に、父のことを思い出している・・・。