撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

静かな決心(純情きらり)

 「ゆるしません」と言った美しい顔が心から離れない。泣くことも
怒ることもせずに、静かにそのひとは話した。


 あなたをゆるさない。戦争をゆるさない。そして、戦争を拒否しなかった
自分をゆるさない。


 桜子は、達彦の苦しみを自分にも起こりうることだった、また、わたしも
別の意味で戦争に苦しんだ、達彦さんは一番きついことを引き受けてくれたん
だね・・と自分のものにしてともに悲しむことで寄り添った。事実、桜子も
戦争ゆえの苦しみを味わったのだ。


 若山さんのお姉さんは、弟の未来を奪った戦争をゆるさないと言った。
そしてその戦争のゆるせない事柄の中に、他人や時代だけでなく、それに
逆らわなかった弟を戦争へと送り出した、自分もゆるせないといった。ひとの
せいだけでなくその責任を、自分もまた引き受けた。


 解説するのはそれなりにできる。批評や批判は誰にでもできる。自分の
ことを棚にあげれば、いくらでも言いたいことは言える。もちろん、いろんな
ことを考えたり、書いたり、しゃべったりすることは悪くない。


 でも、本当に大事なことは、それで終わらせてはいけないのだろう。ドラマ
にも作り話にも、真実をちりばめてある。それは、いつの時代にも通じる、
普遍のメッセージだ。それを、どれだけ自分のものとして受けとめるか・・・。


 彼女の瞳が、まっすぐに達彦さんを見たとき、ピントがあったように浮かび
上がった。達彦はこの日のことを忘れないだろう。桜子も、達彦に寄り添い、
同じ気持ちを支え持つだろう。わたしたちも、この桜子と達彦を思い出すとき
達彦の、心の痛みを忘れないでいたい。


 お姉さんが、ゆるしません、と言った言葉が、弟を忘れないで・・と叫んで
いるように聞こえた。未来を奪うこと・・それはなんとむごいことなんだろう。