撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

こころ(カーネーション)

糸子の宙をなぞる指先
そこには数日前にいた勝さんの大きな背中の影
なくなる直前に気づいた愛しさ
なくなってしるその存在の大きさ



割烹着すがたの婦人会の数人の場面はショッキング
人の心の中にはいつの時代でも本音と建前があるはずだけれど
昨今のように本音ばかりで美しい建前のないのも問題だけれど
本音も漏らせない時代の建前などそれは化け物に過ぎないのだと思わせられた


戦争は、自分の国をおおきくするための欲の皮を突っ張らせた戦いだったはずなのに
生きて帰ることも許されず命をささげてなんぼだなんて
もうどこかでおかしくなってしまっていることに気づかない異常さ


大きいあたたかい背中
わろたりしゃべったりする顔
こころ
それが全部骨になってこその値打ちやっちゅうんか
これだけのもん
石炭みたいにぼおぼお燃やして
日本はいったいなにが欲しいちゅうねん


いつも世の中はどこかでくるりと入れ替わる
正しいか正しくないかではなく
どれだけのひとがそうなってしまったかによって
昨日までは愛しいひとを守るためにたたかっていたはずのひとが
ただ前のひとがそうなったとおりにするために逝き急がなくてはならなくなる
だからこそ遅れてはいけないのだ
嫌なことは嫌ということ
出来ないことはできないと主張し続けること


心の中は様々な想いがグルグルと・・・
もう糸子は勝には逢えないんだろうか
会わずに生きていくのだろうか


置きみやげは愛しさと憎らしさ
いまとなっては
ただ純粋な愛しさだけよりも
かえって残していかなければならない糸子に贈る置きみやげとしては
優しかったのかもしれないとすら思えるこの時代の皮肉


も・し・も
本当に大切な秘密のツーショットの写真を手元に残したいなら
木の葉を森に隠すようにたっぷりと仕込んでおかなくちゃね・・
ショックを受けた残されたものが
そのうち呆れて大笑いして
笑顔と涙で逝ってしまったものを思い出してくれるくらいに・・・

赤いスカート

昨夜は次男の友達が4人泊まっていった
朝ごはんには野菜たっぷりのスープを作って勝手に食べてもらった
まだ少し残る風邪に用心してもういちど病院へ薬をもらいにいく
帰ってきてお楽しみの「カーネーション
不覚にも声が漏れてしまうほど泣けて泣けて泣いてしまって・・・
振り返らず、声もかけずに、ただテレビ観ていてくれたダンナにすこしだけ感謝


思ったよりも午前中動いてしまったので
午後は予定通り休養
・・という間もなくあっという間に夕方で
こどもたちはそれぞれに夕食を済ますというので
夫婦ふたりで近くのお好み焼きのお店へ


実はここはわたしの中学の先輩のお店
まったく不真面目なバスケットボール部員だった私は
いまさらことさらに後輩と名乗る勇気もなく
ただの客として通い続けているのだけれど・・
(御夫婦は二代目なので、ふたりが結婚して店に入るより前から食べてたしね)


何故だか彼らが中学生の頃のことが目に浮かんで
ふたり、制服ではない恰好で
中学の近くの道を並んで歩いていたこと
それがなんとも楽しそうで暖かそうに見えたこと
羨ましいなんて感情でなく
ホントに幸せそうで見つけたわたしも幸せな気分になったこと
そんなことをふと思い出してしまっていた


帰り際に先輩である奥さんに
「中学の時、赤いタータンチェックの巻きスカート持ってらしたでしょ?」
って囁いたら、ちょっと照れた笑顔になって
「ようそんなこと覚えとうね!」ってごくごく軽く睨まれた
そりゃ目撃しましたからねって笑顔で返してごちそうさま言ってきた


手をつないであるくふたりの胸の中にはクリスマスの鈴の音がかすかに響く
遠い過去の風景にも
さりげない日常にも
思い描く未来にも
12月の風は冷たさの中に華やぎを隠し持っている