撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

本当のこと・大切なこと(純情きらり)

 仙吉さんがやめたい・・と言い出した。時代も変わってもう、自分が
やれることはない・・と。「寄る年波には勝てんなあ」と笑っていた
野木山さんも、うしろで寂しそうな顔をしていた。


 桜子が言う。「ほんとにそうだろうか?みんなないから我慢してる
だけなんじゃないだろうか?」。戦争中に、綺麗なものが着られなかった
ことも、本物の八丁味噌を食べられないことも・・。


 達彦と桜子が集めた署名を見て涙ぐむ仙吉。「お二人だったら必ず
八丁味噌を復活させてくれる・・」と。本当は、仙吉は歳を取って
自信がなくなったりしたわけじゃないと思う。自分が本当にやりたい
ことが、この先できるかどうか自信がなかったんだ。山長のことは
大切に思っているけれど、それは、自分の職人のプライドと山長の
老舗としての誇りがぴったりと重なるからこそだ。


 本当のことを見つめる桜子に頭が下がる。仙吉さんが望んでいた
本当のこと。山長が目指すべき本当のこと。
 我慢はしなければいけない。すべてがいま叶うことも手に入ることも
出来ないときはある。それでも、本当のことを忘れてしまって、大切な
ことを捨ててしまっては、それは、手に入れることは出来なくなるんだ。


 今の世の中でもきっとそうなんだろう。なくて我慢することは少ない
かもしれないけど、あまりに色々なものがありすぎて、それが本当に
欲しいものだったのか、これでもいいやと思ったものなのか・・。
 すっごくおいしい一品を食べようと思ってレストランに行ったら
それと同じか安い値段でバイキングやってたからついつい食べちゃった
・・って感じです。それなりに満足はするんだけど、かえって食べ過ぎて
ちょっと自己嫌悪になったり、どこか満たされていない心を感じて
いたりするんだよな・・・。たとえが飛んじゃってすみません。


 桜子の妊娠を知った達彦が「よかったなあ」と言った声がたまらな
かった。溢れ出して、とろけだしたような、声だった。
 そして「本当に良かったよな」と噛みしめるようにいった一言。
今の幸せを噛みしめ、そして、今まで自分たちが迷い傷つきながら
それでも選んできた道が決して間違ってなかったことを確信すること
が出来た喜び・・・そんなものを感じさせられた。