撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

L'INTERDIT

飴色に潤う柔らかな木肌
上品な曲線を描く肘置き
懐かしくてしかも古びない布の模様
砂時計のように時間が降り注ぐその一角を見つけた時
思わず手を伸ばしそうになった


赤い斜線の禁止のマーク
そうだった、展示品だったのだ
なんて的確な場所に置かれた小さな注意書きのボード


美術館にはどこもそこに関わるゆかりのひとがいる
いまから始まる物語の最初のページを開いたときに
目に飛び込んでくる活字の書体とインクの匂いを決めるような・・
そしてそれは本におけるそれと同じように
理屈でははかれない好きと嫌いを
かすかに感じるか感じないかの距離感で漂わせてもいるような気がする


理屈でははかれない好きと嫌い
それはほんの何気ない景色に宿る
そのひとの佇まいだったり
ちょっとした言葉の使い方だったり
運転するときのブレーキのかけ方だったり
ふと見せる笑い方だったり
それは薄く薄く重なっていく




誰もいない海でふたり水平線に浮かぶ灯りを眺めている
端から端までが過去現在未来だとするなら
過去も未来も輝いている
ただ
現在(いま)を表す正面だけが夢のようにうっすらとぼやけて見える
いつか見た夢の続きを見ているような気がする



夢のように時間が過ぎていった
あわくうすい色を重ねたその記憶は
最後の抱擁の温もりを表紙にしてとじられた
何度も通ったこの場所で車に乗り込む前に
ふたりだけの瞬間をすこしだけ留めようとする
背中にまわされた腕のちからの強さと
すぐ近くにある耳たぶのかたちと首筋のライン
くちびるだけでなくそこにも
紅(ルージュ)をつけたくて仕方がなかったけれど
それは心の中で押しとどめた






禁止されたのは何だったのか?
触れること?
進むこと?
それとも得ようと望むこと?



それよりも・・
心の自由を失うこと
それこそ避けねばならぬこと
はじまりはあってもおわりはなく
かたちづけることもできないこの想い


だからこそ



この気持ちに名前をつけてはならない
ただ幸せを幸せのままで持ち続けられるように
L'INTERDITを胸元にひと吹きして
新しい今日へ一歩を踏み出す


振り返ると過去はもう輝いている
そしてきっと
いつか来る未来も輝いているのだ