撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

なんのために

久しぶりにラグビー観に行こうかと誘われたので
次男が卒業してからは遠ざかっていた中学生のラグビーを観てきた


場所は鯛生スポーツセンター
カメルーンのサッカーチームが合宿したことで有名(?)な場所
いまもその看板が堂々と立っているのもなんだか懐かしかった


急な坂道を上りながら(車でだけど)ああ、そうだったなと
幾度か来たことのあるその記憶がよみがえる
あるときには夏の合宿場所として
あるときには九州大会の試合会場として


きつい合宿で子どもだけでなく親たちも険悪になった年
優勝候補で出場した試合で準決勝で思いがけなく負けて
ぽっかりと空いた時間と心の穴を埋めた年
中2のときに学年役員として中3と一緒に決勝まで働いた年


あらあら?我が子の思い出より自分の思い出の方が多い?
まあそりゃいくら我が子のために来ても思うのは自分なりの想いだけどね


最後にここに来たとき
まだ九州大会が最終目標でこの決勝に出ることが
いちばん長くラグビーをプレイできることだった頃のこと
ひとつ上の学年のお母さんがその決勝戦の日の朝
「最後の練習を観てきます」と静かな笑顔で告げ
練習用のグラウンドへの階段を上っていかれた後姿が思い出された


最後になるかもしれないけれどそうなってほしくないと思いつつ重ねた日々
そんなものしか知らない私にとっては眩しすぎる後姿だったなあ・・・


今は九州大会Aパートの上位2チームは全国大会へ行けるらしい
今日の準決勝二試合はそんな意味でも白熱した試合だったに違いない


それともうひとつBパートでの戦い
こちらは出場チームの多い県の2位チームが争う山


息子たちがかってお世話になったクラブチームは
今年はこちらで出場
昨日の試合を着実にものにして今日の試合に臨む
最初からノーホイッスルトライ
その後も当たりの強いフォワードときちんと走りぬくバックスで
テンポよくトライを重ねていく
まあ、いいんじゃない
さすが出場チームの多い県で決勝まで戦っただけのことはあるわね
と、感心しながらもどこか遠くからみている自分に気づく
中学生の試合ってそんなものだったかな?
自分にとってもうひとごとのゲームなのかな?


前半20分の終盤からは選手交代を始める
ああ、そうだよね
今日、明日の試合が最後だもの
余裕のある点差がひらけばなるべくたくさんの子に試合を経験させてやりたいよね
これまで全国大会を目指していた時にはしたくても難しかったりもするし・・



最初ほどはトライへの手順が単純ではなくなる
相手に点を取られるほどではないにせよ
懸命のディフェンスに自分のやり方を乱されたりすることも
こぼれた球に目が行ったときに鮮やかに身をひるがえし
まさに我が身を挺してそのセービングにあたったのは
ポニーテールの影が見えなかったか?
数人の折り重なるひとの塊がほぐされて個々立ち上がったときに
その最後にあらわれたのはやはり女の子だった
あれっ?カッコいいじゃん!
いますっごくわたし心掴まれたかもしれない・・・



前半終了
もうひとつのグラウンドであっている試合も気になり
しばしその場を離れ会場を散策する
どこにいても暑い夏ではあるけれど
木々のくれる影にいて運よく風が吹けばこの上なく気持ちよい
水道から惜しみなく出る水も街の温度とは段違いに冷たい
そうだね
夏合宿に選ばれる場所だものね


ひとまわりして最後はやはり古巣のチームを見届けたく元の場所へ
メンバーはおそらくほぼ入れ替わり
最初にはいなかった子たちが走ってボールを追っていた
そのボールのつなぎ方になんだか胸が熱くなってきた
同じ練習を重ねてはきただろうけれど
同じほど試合でパスし合った仲間かどうかは分からない
それでもいまここでチームメイトとしてトライを目指す
その「いま」がとても輝いて見えるほどに充実している


相手チームとしてはどうなのだろう?
前後半の40分
相手チームに走られ追いかけ続けた時間
それでもこの試合に臨むために過ごした時間は変わらないはず
彼らは何を想いながら走り続けたのか


そんなことを思いながらノーサイドの笛を聴く
ただ自然に拍手をしたら周りからも控えめな拍手が聴こえる
チーム全員がグラウンドにでて正面にあたるグラウンドの向こう側で
揃って礼をする
その場から立ち去る機会を失ってそこにそのままいたら
相手チームが場所をとっていたこちら側へその選手たちがやってきた
きれいに一列に並びながらも力なくうなだれた子も数人
そのはしに立っていたキャプテンらしき少年が叫ぶ
「顔をあげろ!」
そして一呼吸おいて一同礼


もうっ!!!
なんてことしてくれるの!
心の中で涙腺決壊
なんて、なんてカッコいいわけ!


なんのためにラグビーをするのか
なんのためにこの試合を戦うのか


その子なりの今日の試合の重さはあるかもしれない
ひとからみる重さとは別の
その子のはかり方のかけがえのない重さもあるかもしれない
ほんの一瞬垣間見たその子の今日の輝きは
重ね続けた日々の結晶かもしれないし
想いつづけたことへのご褒美かもしれない


実らなかった恋にも意味があるように
今日で終わる夏にも意味があるのだ


彼らが次のステージでまた輝くことを心から祈る