撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

お正月の松の内も開けぬ頃
仕事の荷物を車に積み込んでいて
うっかりドアに指を挟んだ
右手の中指の爪の付け根
あわてて有り合わせのもので冷やして
どうやら骨に異常がないことを確認して
数日は痛かったけれどそのうち忘れてた
季節が春に変わる頃ふと見ると爪に色がついてた
茶色の小さな斑点が数個
爪のまんなかあたりに散っていた
指が受けたダメージ
なんとか耐えてくれたしるし
指先を気にするひとだったらその色は醜いのかもしれないけど
いまの私にとってはそれより指が無事だったことに感謝
ただその茶色の模様がすこしずつ登って行くのが
時間の経っていることだけ教えてくれてた


今日ふとみるとその色が爪の先まで来てた
あと二週間くらい
そう二回も爪を切る頃にはなくなるだろう
長かったような短かったような・・


いろんなこと
そんなふうなのかもしれないとふと思う
忘れたつもりであとで堪えて
そしてそれから淡々と時間が過ぎ逝くにまかせて
いつかちょっとした胸の痛みとともに心から消していく、
ほんとうにいつのまにか消えていく・・・



忘れないって思うこともいつか忘れるんだよな
でもって
忘れたつもりのことふと思い出したりするんだよな
子どもの頃にひざに付けた
消えない傷跡は残っててもその痛みはもう覚えてない
切ってしまった爪はもうどこにも残らないけれど
かすかに残る記憶は思い出すたび切ないのかもしれない