撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

産まれ出でよ!

 自分の力はもっとある。コーチはどうしてもっと評価して試合に出してくれないのだろう・・と愚痴る次男。おやおや、そんなこというの初めて聞いた。まるで、試合にでるかどうかなんてどうでもいいような顔をしていたのに!このところ、やるきなしお君に見えていた我が子の、その主観的言い分が正しいかどうかよりも、そんな負けん気を表に出してくれたこと自体が嬉しくてちょっと心が明るくなる母。


 大いにその体つきとふてぶてしさを褒めておだてて、でも、コーチたちは超能力者じゃないんだから、そのやる気を表に出して力のあるところ見せなくちゃわからないよ。あなたの言うことを本当だとして、あなたが100の力、他の人が80の力をもっているとして、100のあなたの60パーセントよりも、80の力の人の120パーセントのほうが、今現在の戦力としては使えるように見えるのは誰が見ても明らかだよね!と納得させる。


 もう母はすべてに100パーセントの力を出すことを要求はしないから、あなたがやりたいこと、伝えたいことだけは200パーセントの力を出したらどうか?と。フルに試合に出ることをかならずしもしなくても、先発で出て、だれかひとりつぶして選手交代でもいいじゃない!なんて、紳士のスポーツらしからぬ提案までしてしまう、今日の母。先日も練習後に「むかついた〜!コーチ本気でやっつけたかった」という次男に「やればいいじゃん!本気でタックルでもしてそれがすごかったらコーチもそれはそれで嬉しいと思うよ」なんてけしかける母。


 何でもいいのだ。この渦巻く心のうちの混沌としたもののを吐き出す突破口がみつかれば・・。まだ幼いプライドが傷つきたくなくて産まれ出ることをためらっているようなこの時期の彼ら。もう間もなく破水して、苦しみながら自ら産み落とされることではあるだろうけれど・・・。その兆しもまもないと感じるこの頃・・・。


 レギュラーになっている昔からの仲間に、「おれのベストメンバーにはおまえ、はいっとおっちゃけん!」と、言われたらしい。そんな仲間のいることが、この時期に、これからの人生にどれだけ素敵なことか彼はまだ気づいてないかもしれない。それでも、彼を動かすのは、親でもコーチでもなく、きっと仲間たちであろう。大人がどんなふうに考えているか、そして一部の大人はどれだけ考えてくれているかなんて、今は気付く必要も気にする必要もない。


 赤ん坊ははじめは母と自分の区別もつかず、育ち始める初めの時期は自分を全能の存在だと思っているらしい。産まれおちたばかりのプライドもきっとそんなものなのだろう。自分のことは棚に上げ、周りのことばかりに敏感で、傷つきやすく、そのくせ誇り高い・・・。それでも、その心は柔らかい。傷ついても、その傷をも飲み込んで日に日に、大きく、強くなっていくのだろう。母親としては、その成長を楽しみに見せてもらうことにしよう。時折、寒くふるえて動かなくなったときにだけ、つっついてやったり暖かく撫でてやればいいかな・・などと考えている。