撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

まんどろの月

 空を見上げると満月だった。しばし見とれていると思わず思い浮かん
だ言葉とその台詞を口にしていたひと・・。


「ああ・・まんどろの月だ・・・」


 不思議な魅力のあるひとだったな・・と思う。はじめは何とも思わな
かった。どちらかというと嫌いなくらいだった。いつも女の人に囲まれ
ているのがなんだか不自然だった。どこがそんなにいいのだろうと
不思議だった。


 でもたぶん、その男が自分のことをその瞳に映してくれたらそれは
たまらなくいい気分になるのだと思う。誰のものにもならないくせに
自分が一番でいなければおさまらない、大人の部分と子供の部分を
それと気づかずに持つ男。いや、一番になろうなんて考えてはいない
のかもしれない。しかし、その時に目の前にいるひとしか愛せないで
あろう男。あふれる愛情を持ってはいるけれど、それも自分という
強烈なものを通してしかあらわせない、純粋にしてこれ以上ないほど
我儘でもある男。


 猫の目のように・・満ち欠けする月のように・・焼き付けておくこと
も、そこにとどめておくこともできない、それを覚悟の上で、しばし
となりに寄り添い、この美しい月をともに愛でたいひと・・・。


 もうずいぶん経つのに忘れられない個性ではありましたね。
純情きらり西島秀俊さん演ずる「冬吾さん」でした。