撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

2-9

 先輩に最後の手紙を書いたのは秋だった。大学3年の秋、先輩の
住んでいる町の近くまで、大学の研修旅行でいくことがあり、もし
その時にどこかで逢うことができるのなら・・と連絡をしたのだった。
しかしながら、手紙は先輩に届くことなく戻ってきてしまった。赤い
スタンプで押された文字が残酷なほど先輩との距離を思わせた。


 その時、もう2年ほども連絡していなかったのだった。本当の意味
での、先輩への最後の手紙はその2年前の秋だったのかも知れない。
 高校1年の時に見つめ続けて、それから高校を卒業するまで手紙の
やりとりを続けた。先輩の卒業式の日に渡したラブレターの返事は
保留のままで、何気ないやりとりを2年間も続けた。私達の卒業式の
日には、先輩達ふたつ上のひとたちがいっぱい集まって一緒に祝って
くれた。似合わない長髪をみんなにからかわれながら、笑っているその
笑顔はひとつも変わっていなかった。口の悪い男の子が先輩いまどき
流行らない学生運動でもしてるんですか?というのにもただ笑い飛ばす
だけだった。それでも、その時ふと目のあった先輩が一瞬まじめな顔を
したのが何故か不安になって、その日は何も喋れなかった。春休みに
仲のいい女の子が先輩に連絡をもらって逢ったという話を聞いた。どう
してその子だったのだろうとひとり泣いた。それからもう手紙を書け
なかった。どんな話題をのせていいやら分からなくて書けなかった。
いつも、私が出しては先輩から返事がくるという手紙のやりとりだった
から、これでもう終わったと覚悟した。半年も経った頃、先輩からの
手紙が届いた。何故か自分の家族のことが綴られてあった。そして私
からの手紙が楽しみだと書いてあった。寮の友人が手紙が着くたびに
冷やかしていたのに、このごろ心配してくれている・・と。


 思い出した。そうして私は同じひとに向かって二度目のラブレターを
書いたのだった。返事は来なかった。しかしながら、ほどなくわたしは
あの子とつきあい始めたから、待つことはそこでおしまいになっていた
のだった。しかしながら・・どこかでわたしは待っていたのだろうか?
ずっと来ない手紙を待っていたから、先輩のことをどこかで忘れられな
かったのだろうか?返事の来ない手紙を想像することは今でも何より
淋しく、怖ろしくつらい。