撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

2-8

 窓の外に気配を感じて顔を上げると、いつの間にか雪が降ってい
た。こんなに空調の利いた室内で、それもこんなに暗くなっている
というのに、そんなことは感じるんだと思うとおかしかった。
 まさかとは思うけれど、積もったりしては大変だから、早く帰ろ
うと考える。そんなことを考える自分はもっと可笑しかった。雪が
降ったと騒ぎまくって乾杯して、挙げ句の果てに車一台とおらない
道路を仲間と歩いて帰ったのは学生時代?徹夜明けの友達を誘って
海を見に行ったのは23の時・・。Tシャツに半ズボンなどという
何とも頼りない格好でフルフェイスのヘルメットをかぶったことも
あったというのに!


 いつからこんなに臆病になってしまったのだろう。あの男には、
自分から電話をすることすら怖くて、時折来るメールに当たり障りの
ない季節や仕事のことなどを書いて返している。そんな返事を読んで
いるのかいないのか、向こうからも忘れた頃にしか返事が来ない。
 ひとりには慣れている・・。分かっている・・本当は傷つくことを
怖れているだけだということは。しかしながら、好きだと書いて
好きだと帰って来ないメールを思うと、どうしても心をさらけ出す
ことができない。どんなに優しい言葉を掛けられても、眼差しを
向けられたとしても、わたしが本当にそれを欲しがっているときに
振り向いてくれなければ何にもならないのだ。それならいっそずっと
優しいすれ違いのままでもいいと思っている。あの男の優しいところ
だけを、大事にとっているキャラメルのように舐めていればいいと
そんな後ろ向きの幸せを思っている。


 とにかく、秋はそんな風に過ぎていった。忙しさを言い訳に出来る
ほどに忙しい仕事を持っていて幾分ほっとしている気持ちがあったこ
とだけは、正直に白状しておこうと思う。