撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

2-2

 何度目の恋だろう・・。何度目のキスだろう・・。


 10代の恋でもあるまいに、やっぱりふたりはあてもなく街を歩いている。
さっきまで饒舌だったふたりのくちびるはなにも話せずに曖昧に閉じられて
いる。どこにいくでもなく、人混みを避けながら、それでも暗闇も避けながら
一体どうしたいのか分からないまま、どちらも問いかけることも出来ないまま
街を歩いている。


 川に架かる橋を渡る。昼間はひっきりなしにひとが通るその場所も、
夜更けたこの時間にはちいさな公園のような静かな場所になっている。
 あの男が振り返る。わたしの瞳をその瞳で捕らえようとする。わざと
目を逸らしたら抱きしめられた。逃げられないように急に動いた獣のよう
だった。「痛い・・」自分でもびっくりするほど不機嫌な声だった。慌てて
腕を解くあの男・・。ううん・・腕が痛かったのじゃない。あの男の
胸にかけていたチェーンにいくつも通されていたリングが、わたしの丁度
こめかみに当たったのだ。ぴったりと重なろうとした、あの男の胸と、
私のあいだを邪魔するように・・。


 ちいさな痛みと、邪魔された悔しさで、何だか泣きそうになっている私の
本当のこころは分からない。私が怒ってしまったと思ったあの男は、優しい
声で大丈夫か、寒くなかったか・・と気遣ってくれる。大丈夫・・といい
ながらどうしても元に戻れない自分に嫌気がさしている。キスの予感を残した
ままタクシーに乗り込んだ。


 大人になったら上手く恋が出来るなんて嘘だ。
意地っ張りの小さな女の子を、こんなに大きくなってしまったからだのなかに
住まわせたまま途方に暮れている。