撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

 21

 心の中に波が打ち寄せる。どこから湧き起こるのか分からない波が幾度も
うち寄せて私を不安にさせる。


 いや、この不安は、不安と呼べるものなのだろうか?不安と呼ぶには、
微かに甘く、そして儚すぎるような気がする。粉砂糖の上に、スプーンで
形をつけたように、すぐにほろほろと形をなくすか、ちょっと油断したら
溶けてなくなってしまいそうだ。なのに、その儚い感触を、触ることなしに
確認しようとしたがっているように、手を伸ばしてはためらい、そして
また目を離すこともできずに、なんだか決まり悪くしている。


 海を見に行ってから、2週間ばかりが過ぎた。初めの休みの日には、あの
男のことを考えていたけれど(正しくは男と交わした会話の内容)、次の
休みの時には、ただ、あの海の蒼さを思い出していた。


 あれから電話はない。帰り着いてしばらくしてから、やっぱりお礼は
一言いっておくべきだよな・・などと考えてこちらから電話したのだけれど、
やさしい声でどういたしまして・・と言ったすぐあとに仕事の電話が鳴る
気配がして、じゃあまた・・と慌ただしく切られたのだった。


 パソコンに向かって仕事をしている。同僚達の笑いさざめく声が眠気を
誘う昼下がり。仕事に疲れて目を閉じて上を向くと・・・今日は何故か
あの海の蒼さと、繰り返しうち寄せる波がまぶたの裏側に浮かんでしまう。