撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

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 久しぶりの何もない休みにコーヒーを淹れる。買ってから数回しか
使ってないエスプレッソマシンに、ごく細かく挽かれたエスプレッソ用の
コーヒー豆を入れ押しつける。セットして、ボタンを操作して・・・。ああ、
まだ慣れてないや、もう一度説明書を見ながら・・などという煩わしさすら
楽しめる、ひとりの暇なブランチ。
 男がそばにいたらこうはいかない。食事を作る暇がないか、食事をゆっくり
作る暇がないかのどちらかだ。それが楽しいこともあるけれど・・・。
 しかしながら、大抵は、お腹をすかせた男は始末におえないし、たらふく
満足しきった男は魅力的には見えない。男と女が同じような気持ちでいられる
ようになるまでには、わたしなど想像もつかないような人生経験が必要なん
じゃないかと考えると気が遠くなってしまう。それとも、男と女はちがうもの
だと、もっときちんと認めなければならないのだろうか?


 苦い苦いエスプレッソを二杯分。一人で飲むから、普通のコーヒーカップ
6分目ばかし。飲み始める前にグラニュー糖をティースプーンに2杯沈めて
おく。


 パンとプレーンオムレツ、グレープフルーツに生ハム。
そしてエスプレッソ。


 グレープフルーツは甘酸っぱさのあとにほのかに苦みを感じる。なんだか
何の気なしに言った言葉が、あれでよかったんだろうか・・ってちょっぴり
ひっかかったときのような、微かな後悔の切ない味がする。気にするほどの
ことはないのだけれど、どこかに残る不安・・・。


 いっそエスプレッソの苦みの方が、苦いと分かっているぶんだけ潔い。
顔をしかめながら、それでも楽しんでいる自分の気がしれない・・。
 それでも自分できちんと計算している。飲み干すころには、ちょうど溶けた
砂糖が程良く甘い余韻を残してくれるように・・・。
 男と女のbitter&sweetもこんな風に計算できれば、なんの苦労もない
のに・・と、溶け残った砂糖をかき混ぜながら苦笑する。