撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

 19

 帰りの車の中で、会話も出尽くしたあと、ふと聞きたくなった。
「どうしてわたしのこと誘ったの?」
「理由なんてないよ」
「女の人とよくドライブにいくの?」
「・・答えられないな・・」

 ちょっと気分を害したような声だった。

「美卯ちゃんはいったい何が聞きたいの?」
「何が・・っていうわけじゃないけど・・」
「誘いたかったから誘った・・それじゃ駄目なの?」
「・・駄目じゃないです・・」


 さっきまで快適だった車の中の空気が私を責め立てる。心臓は
どうしよう、どうしよう、と音を立てている。知らないうちにわたしは
帽子の内側についている、ちいさなリボンの端布を何度も何度も
親指と中指にはさんでこすっていた。


 と、右の耳のうえあたりに気配を感じた。男はまるで昔からそう
してきたように、わたしの髪の毛を軽く撫で「別に責めたわけじゃ
ないから」とつぶやいた。わたしは目を閉じて、ちょっぴり頭を
その手にもたれかけた。体温が伝わる。


 男は、まだ日が落ちきらないうちに、自宅近くに届けてくれた。
「じゃあ・・また誘いたくなったら誘うからね」
と、男は普通通りの声で言って車を出した。私は、帽子を被ることも
忘れて、西日のまぶしさに目を細めたまま、車を見送った。今日見た
波が、残像のように、わたしのどこかで繰り返しうち寄せていた。