撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

 13

 3回鳴らした。自分の胸がその存在を教えるように激しく脈打って
いるのを感じる。いったいこの興奮はなにを意味するのか自分でも
分からない。自分でつくった決まりに従うように、ちょうど3回目の
呼び出し音がとまるのと同時に携帯のボタンを押して切った。その
ボタンには始めから指を重ねていたから・・。


 知らずに大きなため息が出た。何だか少し腹立たしいような気持ちが
した。いったい何に対して?今のわたしの顔を鏡に映したら、いったい
どんな顔が映るのだろう?


 片付いた部屋の真ん中で、ペタンと座り込んでいたら、携帯が鳴った。
電話番号が小窓にうつっている。登録してない、そう、いまかけた
ばかりのあの番号だ。おそるおそる出る。
「もしもし・・」
聞き覚えのある・・というにはまだ数回しか聞いたことがないのだけれど
あの、聞き覚えのある響きのあるあの男の声だ。わたしの番号は教えて
いなかったのに、よく見たこともない番号をリダイヤルしたものだと
驚きながら、それでもなんと言ったらいいのか忘れたように無言で携帯に
耳を押しつけている。
「美卯ちゃん?・・・美卯ちゃんでしょう?」


たしかに話の途中で名前を聞かれたけれど、どんな字を書くの?と言われ
教えたけれど、どうして初めての電話でそんなにわたしの名前をためらい
なく呼ぶの?どうして見知らぬ電話番号の物言わぬ相手にわたしの名前で
もうとうの昔から知っているような響きで呼ぶの?急に喉がカラカラに
なった気がして、ちいさく答えた私の返事はかすれてかさかさの音がした。