撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

 8

 喫茶店を出て、見るとはなしにウインドウを見ながら、ゆっくりと
街を歩いていた。その何件目かのウインドウを覗き込んでいたときに
ふと、ガラスにうっすら映る、私を見ている人影に気づいた。どうして
このひとはこんなに私を驚かすのだろう。どこかちいさな怒りを感じ
ながら振り返ると、さっきまでの顔とは少し違う、困った子供のような
顔つきで、そのひとは私に言った。
「初めて会った人に奢ってもらうわけにはいきませんって・・僕だって
そうだから・・」と、私がテーブルに置いてきた千円札のお釣りと
思われる小銭と、レシートの紙切れを私の手に握らせて、じゃあ・・と
人混みに消えていった。なんてまあ、ご丁寧なこと・・と少しばかり
あきれながら小銭を納め、紙切れを見ると、裏にカタカナで走り書きした
名前と携帯の番号があった。てのひらで握りつぶしながらも、その手を
ポケットに突っ込んでしまったのは、風が冷たかったからだろうか?