撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

その年、この年(芋たこなんきん)


  純子さんが北野くんにどうかした?ときく。その声がちょっぴり
甘い。出ていった彼を町子さんとふたり見送ったあと、町子さんが
純子さんの眼差しを見やる程度に、ちょっぴり甘い。北野くんが
どうかしたような顔をしていたのがどんな訳なのかはまだ全然わから
ないけれど、純子さんのこころのなかになにか暖かいものがあること
だけはわかる。自分で大事にしているのなら、それもいいと思う。


 昭一さんが女の人を連れてきた。これからいったいどうなることやら
なんだか、よかったねえ・・と一緒に喜ぶ前にちょっと警戒しながら
みているのはわたしの僻目というものだろうか?
 それでも、眠ってしまった彼女に上着を掛けてやって、ちょっぴり
彼女のほっぺたをつつくおにいさんが可愛らしい。彼女の存在は彼に
暖かいものを与えてくれているのだろう。


 明日はどうなるかわからない。その年でまだ?この年になって?
と、いってしまうのは、明日の数が少なくなっているからだろうか?


 小さな子供が傷つかないように心配するように、年をとってから深い
傷を負わないように、まわりの優しい人々は心配してくれるのだろうか?


 和代さんが一人住まいをすると決めたときに、町子が弟に言っていた。
お母ちゃんにも未来はあるのよ・・と。いくつになっても、自分の人生を
自分の考えで決めて、背負って、楽しんで、いざというときにはその
責任を負って、時には傷つくこと・・・。どんなささやかな毎日でも
その覚悟を持って過ごしているうちは卒業でも、隠居でもなく「現役」
なのではないかと思う。