撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

なんかあったの?(芋たこなんきん)

 町子も健次郎もそれぞれに気がかりなことを抱える。まして
健次郎は、医者という立場もあり、おいそれと口にすることも
できない。そして純子さんもまた・・・。


 毎日いろいろある。言うほどのこともないささやかな鬱憤から
いつ打ち明けるべきかとその時すら神経を使う大きな問題まで。
心のボタンの掛け違いのような、微かな違和感から、胸をえぐら
れる心配事まで・・・。それでも毎日の生活は容赦なく運んで
いく。残酷にも、優しくも・・・。


 人と生活するのって、演じることに似ているかもしれない。
感情のままにぶつけるだけでは醜いだけで人に何かを伝えることは
難しい。素直になることすら「大人として」と条件をつければ
訓練が要る。みんな知らず知らずに自分という人間を演じている
のかもしれない。なりたい自分、期待される自分、あるべき自分、
素直な自分・・・。本当の自分なんて、自分にすら分からないかも、
それこそ、刻一刻と変わっていくのだろう。自分の伝えたいことが
伝えたい相手にきちんと伝わればそれは上手くいっているのだろう。


 「なんかあったの?」それは親しい人だけが口にする、楽屋裏の
ひとこと。うっかりみせてしまう素顔かも知れないし、ふとした
仕草に感じ取ってしまう親密さかもしれない。時にはわざとばらす
ちいさなちいさな甘え・・・。一生懸命がんばっているって、ちゃんと
見てくれてる人がかけてくれる、やさしいオアシスみたいな言葉
かもしれない・・・。大切な、優しい人からもらった、美味しいお水を
一杯飲んだら、また歩いて行くとしよう。