撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

夢だけでは...(芋たこなんきん)

 自分の一番近いひとのことも見えんような人間が小説家に
向いているわけがない!と。倒れた奥さんを前に、心配も
そこそこに、明日また来ますわ...という弟子志願者に町子が
もう来なくていい..という。健次郎が最初の言葉を投げかける。


 大人になって夢をみてはいけないのか?という彼に、町子は
夢だけで生きていけるのか?と問い返す。小説家はそんな甘い
ものではない...と。自分の夢のために、周りの人がどういう
状況なのか、自分の夢を支えるために、大事な人がどれだけ
自分のことを考え、支えてくれているのか、その想いと現実を
何も分かっていなかったのか...。


 一人では生きていけない。支えあったり、時には頼ったり
することもあるだろう。でも、自分の荷物をひとに預けてまるで
最初から何も持っていないように軽々と歩いていくのはどうだ
ろうか?大人になるということは、そんなことに気付くことだ。
一人で生きているのではない。みんなしなければいけないことが
ある。もし、それをしていないのならば、自分が先送りしているか
誰かほかのひとがその分まで助けてくれているか..だ。自分の
ものとして、その重さを忘れずにいること、感謝すること...。


 「知るを楽しむ」で、田辺聖子さんが話してあった。戦後、
生活のため、教師よりもお給料のいい金物問屋に勤めていたころ
はじめは「ここは自分のいる場所ではない..」という想いがあった
という。しかし、生きるために一度は夢も理想もすべてを捨てて
やっていこうと覚悟して始めた..と。しかし、そのうち、その
現実の世界でもまれ、生きた大阪弁にふれ、人間をみつめ、今まで
何も知らなかったことに気付く。私の場合は、あれがなかったら
小説なんか書けなかったと思う...と。


 夢だけでは生きていけない。夢、幻の夢でなく、本当の夢は、
生きていくことと切っても切れないものなのだ。まず、確かな
足取りで生きていかなければ、叶う夢、掴む夢、は望むことは
できないのだと思う。一番身近なひとを見ること、そしてそれは
自分を見つめること..に違いないと思う。