冬吾みたいな奴(純情きらりで思い出したこと)
昔、なんでもしゃべれる奴がいた。ほかの人とはしゃべらないこと
女の子の親友にはしゃべれないような恋の悩みまで聞いてもらってた。
よく一緒にいるくせに全然恋愛感情なんてなかった。彼女がいたのか
いなかったのか、そんなこと聞きもしなかった。
一度だけキスした。どん底なほど寂しかったわたしの誕生日に、
雑多な仲間で騒いだあとに、めずらしく家まで送ってくれた別れ際に
何にもいわずにキスしてくれた。その日、救われた気分になったことを
覚えている。
やさしいひとだな・・と思った。でも、やさしさでキスしてくれるような
男なんて、最低!とも思った。
そう思えたことは、どん底からはい上がれたんだろうな・・と思う。
そいつは、あたしのことをよく「自足の女」って呼んでいた。そのころは
なんか、もてなくってさみしくてかわいげのない女みたいにいわれてる
ようで気にくわなかったけど、今は、ちょっと分かるような気もする。
冬吾が桜子に向かって「おめえはつよいおなごだ」と言ったのを思い出して
ちょっと、そいつのことを思い出した。