撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

「私的生活」

 最近(というか、昨日から今朝にかけて)読み返した、
田辺聖子さんの小説。「言い寄る」「私的生活」「苺をつぶしながら」
と、3部作と言える、作品。主人公、乃里子の、独身時代、結婚生活、
離婚後の暮らしとわけることができる。最初は、「苺をつぶしながら」
を読んで、なんて面白いのだろう!と思った。まだ結婚すらしていない
頃のことだった。

 それから遡るように読み、一番身近なはずの「言い寄る」は、あまりに
リアルで、身近な話には却って思えなかったのを覚えている。若いころは
そうだ。自分のことしか見えてない。みな悩んでいるのに、自分の悩みだけが
特別の悩みで、ほかのひとの悩みなど目に入りはしない。そのなかにも
解決の糸口が隠れているというのに・・・。


 この歳になって「私的生活」を読み返して、ゾッとした。乃里子の
結婚生活と全く違う立場にいながら、(乃里子本人は芸術家と呼べる
経歴の持ち主で、結婚相手は大金持ちのハンサム)時々、なんでこんな
ことが分かるの?というくらい分かる感情の動きが描かれているのだ。
そして、許せること、許せないこと、していいこと、してはいけないこと
を、どっぷりと考えさせられてしまった。人生の分かれ道で、なにを
選ぶか?というようなことも・・・。


 その歳でなければ書けない小説がある、と言ってらした田辺聖子さん。
彼女が書いた歳と私の歳(もしかしたら精神年令のほうかもしれないが)が
ぴったりと重なったのかもしれないな〜なんて考えながら、またいろいろ
彼女の作品を読み返してみようと思っている。



   私的生活 (講談社文庫)