撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

祈りの絵 無言館のこと その2


 無言館所蔵、戦没画学生「祈りの絵」展。
 この絵たちに会いにいく旅なのでした。


 なんの飾り気もなく、ただ整然と並べられた、様々な絵。中央には、手紙
や写真などの遺品。絵の横に、その絵を描いたひとの名前と経歴、そして
亡くなった年と場所とそのときの年齢。20代30代で、逝ってしまった
画学生、卒業生たちの絵。戦争で散ってしまった命。


 その絵に寄り添うように、残された家族たちから聞き書きしたと思われる
短い文が書かれている。思い出を語る文章からは、愛してやまなかった
息子や、兄弟への想いが溢れる。本人の出征前の記憶からは、描くことへの
限りなく純粋な執着が迸る。 


 「弟にはいいひとがいなかったから、わたしが一緒に歩いたんですよ」
と思い出を語る、弟亡き後、ひとりで生きてきたお姉さん。


 死ぬ間際まで描いた芍薬の花。それは、自分のことをいつも助けてくれて
いたお姉さんへのお礼のハンカチだった。弟は還らず、そのハンカチだけが
姉のもとに届いた。


 戦死した息子のことを一言も語らなかった画家の父。90歳を越えて、
ただひとこと「悔しい」と。


 明るい色合いの大きな絵のそばに・・・。
 ・・・お孫さんたちも、若いおじいちゃんの絵が大好きだ・・・。


 遺体も遺骨も還らなかった人たちが、自分たちの生きた証を焼き付けた
キャンバスです。愛する家族が、悲しみに打ちひしがれながら、それでも
大変な時代からずっとだいじに抱きしめてきた絵です。


 とっても好きな絵もあった。素人にもわかるすばらしい絵もあった。
こんなに美しいものを創り出す、素敵な人たちに生きていて欲しかった
と思った。・・平和と愛を紡ぎ出すために・・・・・。


 美術館を出ると、楠の若葉のにおいがした。
「生きている」と思った。