パズル純愛小説
すっぽりとシートにからだを納めて深呼吸した。 「なに、緊張してるの?」 唐突に疑問符を投げかけられてムッとした。 「緊張なんかしてません。 それよりどうして声掛けたんですか?」 「えっ?ひとりで歩いてたから それよりなんで車に乗り込んだの?」 「…
その日、朝から迷っていた。会社に出掛けなければならないことは 重々分かっているのだけれど、どうしても行く気になれない。この2カ月 というもの、ずっと行こうか行くまいか迷っていた絵画展が、今日まで なのだ。お休みをとって一日・・と思っていたのに…
喫茶店を出て、見るとはなしにウインドウを見ながら、ゆっくりと 街を歩いていた。その何件目かのウインドウを覗き込んでいたときに ふと、ガラスにうっすら映る、私を見ている人影に気づいた。どうして このひとはこんなに私を驚かすのだろう。どこかちいさ…
いったい何が欲しかったんだろう・・ 今日出会ったばかりのそのひとの声をききながら、一瞬にして 時間を引き戻されてしまった。あの絵の前で立ちつくしていた私。 私がその場所で考えていたひとの面影。遠い昔のあるひとと私が 共有した空間と時間。そして…
あの子とは、それから2年ばかりつきあった。今でも思う。あれは、本当の 恋だったのだろうか?まだ、なにも知らなかった私は、起こること起こること にびっくりして戸惑うばかりで、自分の心も相手の心も深く覗く暇もなかった ような気がする。 その何年も…
その人が連れて行ってくれた喫茶店は、何度も通ったことがあるけれど 気づかなかった地下にあった。広くない、薄暗い、階段を下りる。先を 歩くその人は、一度も私の方を振り返らない。階段を降りたところに 小さなスペースがあり、不似合いなほどに分厚い木…
あの子が私に初めてくれたプレゼントは、陶器の人形のかたちをした オルゴール。なんの曲だったかは忘れてしまった。喫茶店で、あの子を 喜ばそうと、ちょっぴり鳴らして見せたら、恥ずかしそうにするかわりに 「こんなところで鳴らしちゃ・・」と分別くさい…
画廊を出て、本当の光に晒されながら、なんだかさっきの絵の中の 光の方が優しかったなあ・・なんて考える。冬も終わってないくせに 5月の紫外線のように目をちらつかせる気がして下を向いた。 わたしのブーツのとなりに、男物の靴が並ぶ。またもや、いつも…
「美卯はさみしがりやだから」とわたしの肩を抱いて あのこはつぶやいた。大事なものを守るように、自分の ジャンバーをわたしのからだに掛ける。歩きにくいよ、 と思うのだけれど、まあ急ぐ用事があるわけでもないし いいか、とされるままにしておく。 「美…
いつもはじまりはちょっとした偶然からだ。いつも振り向かない 音に振り向いてしまう。いつも立ち止まらない場所で立ち止まって しまう。そして、今まで気づかなかったものに、運命の出会いのように 出会ってしまうのだ。 それは、一枚の絵だった。まちなか…