撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

パズル純愛小説

 10

すっぽりとシートにからだを納めて深呼吸した。 「なに、緊張してるの?」 唐突に疑問符を投げかけられてムッとした。 「緊張なんかしてません。 それよりどうして声掛けたんですか?」 「えっ?ひとりで歩いてたから それよりなんで車に乗り込んだの?」 「…

 9

その日、朝から迷っていた。会社に出掛けなければならないことは 重々分かっているのだけれど、どうしても行く気になれない。この2カ月 というもの、ずっと行こうか行くまいか迷っていた絵画展が、今日まで なのだ。お休みをとって一日・・と思っていたのに…

 8

喫茶店を出て、見るとはなしにウインドウを見ながら、ゆっくりと 街を歩いていた。その何件目かのウインドウを覗き込んでいたときに ふと、ガラスにうっすら映る、私を見ている人影に気づいた。どうして このひとはこんなに私を驚かすのだろう。どこかちいさ…

 7

いったい何が欲しかったんだろう・・ 今日出会ったばかりのそのひとの声をききながら、一瞬にして 時間を引き戻されてしまった。あの絵の前で立ちつくしていた私。 私がその場所で考えていたひとの面影。遠い昔のあるひとと私が 共有した空間と時間。そして…

6

あの子とは、それから2年ばかりつきあった。今でも思う。あれは、本当の 恋だったのだろうか?まだ、なにも知らなかった私は、起こること起こること にびっくりして戸惑うばかりで、自分の心も相手の心も深く覗く暇もなかった ような気がする。 その何年も…

5

その人が連れて行ってくれた喫茶店は、何度も通ったことがあるけれど 気づかなかった地下にあった。広くない、薄暗い、階段を下りる。先を 歩くその人は、一度も私の方を振り返らない。階段を降りたところに 小さなスペースがあり、不似合いなほどに分厚い木…

 4

あの子が私に初めてくれたプレゼントは、陶器の人形のかたちをした オルゴール。なんの曲だったかは忘れてしまった。喫茶店で、あの子を 喜ばそうと、ちょっぴり鳴らして見せたら、恥ずかしそうにするかわりに 「こんなところで鳴らしちゃ・・」と分別くさい…

 3

画廊を出て、本当の光に晒されながら、なんだかさっきの絵の中の 光の方が優しかったなあ・・なんて考える。冬も終わってないくせに 5月の紫外線のように目をちらつかせる気がして下を向いた。 わたしのブーツのとなりに、男物の靴が並ぶ。またもや、いつも…

2

「美卯はさみしがりやだから」とわたしの肩を抱いて あのこはつぶやいた。大事なものを守るように、自分の ジャンバーをわたしのからだに掛ける。歩きにくいよ、 と思うのだけれど、まあ急ぐ用事があるわけでもないし いいか、とされるままにしておく。 「美…

いつもはじまりはちょっとした偶然からだ。いつも振り向かない 音に振り向いてしまう。いつも立ち止まらない場所で立ち止まって しまう。そして、今まで気づかなかったものに、運命の出会いのように 出会ってしまうのだ。 それは、一枚の絵だった。まちなか…